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2019.1.19 取手校2nd 2限目

更新日:2019年1月22日

あけましておめでとうございます。



新年最初の開校は取手校地。

今年イチ押しの新しい鑑賞プログラム「さんぽ鑑賞」を行いました。

@藝大食堂です。


*画像はイメージ


巨大に出力した絵画作品の上を歩きながら鑑賞するというのが、

「さんぽ鑑賞」の特徴です。

見る人の身体性が意識されるのが、まず一つ目の狙いです。


ポイントとしては、

1:作品を拡大することで、「よく見る」という、鑑賞の基本が自然にできる。

2:見ている人の視点や意識がどこにあるか、他の人に分かりやすい。

3:作品や作家が主体ではなく、みている自分自身が主人公である感覚が体感的にわかる。


などのメリットがあります。


1:美術館で人が1作品にかける時間というのは、平均1分未満とよく言われています。私たちはわざわざ美術館まで鑑賞しに行っているのに、ほとんど作品を見ていないのが実態のようです。そこで、作品を大きくしてしまえば=作品の情報を受け取るのに時間がかかる=強制的に見る時間が長くなるではないかというのが、作品拡大のきっかけです。こうすれば細部もよく見えて、ざっと見るだけでも、たくさんの発見があります。


2:複数人で作品を見るとき、普通は誰が作品のどこを見ているのかはよくわかりません。(目からビームでも出ていればいいのですが、作品痛めそうですし・・・)ですが、今回の鑑賞では、見ている人の体の位置や、顔の向きなどで、誰が作品のどこを見ているのが、かなりわかりやすくなります。これは、鑑賞を研究する上でも有効ですし、鑑賞者どうしにとっても、人の鑑賞の仕方を意識するようになり、自分の鑑賞へ自然な変化が出てくることが期待できます。私の鑑賞プログラムでは、鑑賞している人を鑑賞する「鑑賞の鑑賞」や、「メタ鑑賞」というものがテーマにあったりしますが、そこへのフックでもあります。


3:鑑賞に慣れていない方に見られるのが、作品や作家さんを神聖化しすぎて、自分の判断や解釈を遠慮してしまうという躊躇です。「私がなんかが作品について意見をしてもいいのかな・・・」という気持ちですね。確かに作品や作家さんに敬意をもって鑑賞するのは当然ですが、それがあまりにも過度になってしまうと、作品や作家さんに従順、追従的な判断ばかりになって、豊かな鑑賞とは言えなくなってしまいます。多くの人にとって美術鑑賞とは、美術の専門家になるために行うのではなく。自分を豊かにするために行うものだと私は思います。なので、鑑賞者自身が主人公であって、作品や作家情報というのは、自分をよりよくするための道具であるというくらいの認識でいます。今回は作品を踏んで自分が動き回ることで、その感覚を掴んでもらえたらと思っています。「神聖と思われるものを踏んで、自分の意思をはっきりさせるという意味で、これは「踏み絵」だね。」とコメントしてくださった方がいましたが、まさにそのようなものなのかもしれません。


・・・と前置きが長くなってしましましたが、

取手にはこの鑑賞のために、約20人が集まってくれました。

鑑賞する作品はこちら!


どん!


フェルメールの「牛乳を注ぐ女」です。

(鑑賞者には、まだこの時点では作家、作品タイトルは知らされていません。)


オランダ アムステルダム国立美術館のオープンソース高解像度データを使い、

約8倍ほどのサイズになったシートです。

横3mx縦3.5mほどの大きさです。


第一弾としては、名画でみなさんの既視感があった方が、新たな発見が印象に残ったり、

のちに使う資料のバリエーションも豊富だという利点があるということ、

また、現在実物が日本に来ているということもあり、この作品を選びました。


では、ぼちぼちプログラムを始めます。

参加者には、記録用の特製鑑賞ノート、筆記具が配られ、

また、「私語禁止」というルールが伝えられます。


まず作品に乗せてもらう前に、

作者と作品、この作品を愛する全ての人に対して、一礼してから始めます。


最初の課題は「よくみる」ということ。

自由に作品を歩き回りながら、10分ほど鑑賞し、

思いついたことをノートに記します。

・・・と思ったら、なかなか皆さん作品の上には乗ってくれませんでした。

まあ、それが普通の感覚ですよね。確かに抵抗あると思います。

でも、今日は「散歩鑑賞」なので!

なんとかみなさんを絵の上に促します。

すると、じわじわ越境者が・・・


みんなで踏めば・・

と、徐々にほぐれてきたところで、次の課題「見て考える」へ。

見て感じたことを整理し、自分の「発見・気づき」「疑問」に注目。

さらに思考を進めます。

今回のプログラムの狙いに、普段一瞬で起こっている頭の中の出来事を、

出来るだけ分割して、ゆっくり行ってゆくことで、

自分自身の鑑賞の作法や、能力に気づいてゆくというのがあります。

「見るー感じるー考える」は、頭の中で、ほぼ同時に起こっていることだと思いますが、

今回はあえて分けて体感してゆきます。

ここら辺から、すこし作品から距離をとる人も出てきました。


次の課題は「問いを立てる」

これまで考えたことをまとめ、

自分が「あきらかにしたいこと・知りたいこと」=「問い」を設定します。


「なぜこれを描いたのか」という疑問などのを問いにするもよし、

「自分はこう感じるのがわかったけど、それはなぜか」という、

気づきの根拠を問いにするもよし・・・


この「問い」があることで、今後の自分の鑑賞の指針がぼんやり見えてきます

で、次は今回唯一のペアワーク。

2人組になって、これまでの鑑賞過程を伝え合ってもらいます。


自分の考えを言葉にすることで、自然に整理ができ、

また聞き手になることで、新鮮な視点や思考を得ることにもなり、

それも触発につながります。


私語禁止で半時間くらい孤独だったこともあり、

ここの会話は皆さんかなり盛り上がって楽しそうでした。

もう一度作品を見て、お互いの意見を確認し合う姿もありました。


・・・ここで約1時間が経過し、休憩になりました。

藝大食堂のコーヒーがみんさんのお供になっていました。


後半の課題は、「調査」から始まります。

これまで、自分の力だけで作品に立ち向かってきた皆さんに、

「資料」という強力なアイテムが渡されます。


まず作品名と作家名、大まかな生い立ち、時代背景が明らかにされます。

また、フェルメールの関連書籍、「牛乳を注ぐ女」の作品解説の抜粋が数種づつ、

フェルメールの他の全ての作品画像、実寸サイズの複製画が会場にセッティングされます。

そしてスマホの使用も解禁となり、自由に検索も可能になります。

様々な資料を自由に手にとって、

自身が設定した「問い」を深めるための調査を行ってもらいます。


鑑賞プログラムというと、一昔前は専門家が作品解説する知識伝達の一辺倒だったり、最近では対話型の鑑賞法などで知識より感性重視のものだったりと、知識と感性のバランスが極端なものが多いことに疑念を感じていて、その中間のプログラムが組めないかと今回のアプローチになりました。

ここには一年前に宇都宮美術館で行なった鑑賞プログラムで、人が「何か知りたい」という気持ちになったタイミングで資料を見せると、その情報が多種多様であっても自分で何が必要なものか判断できるという発見がありました。

いきなり資料を読み込んでも、ほとんどの人は情報の羅列としか認識せず、頭に何も残りません。しかし、今回のように徒手空拳で作品に向き合う時間を長く設定して「知りたい、情報が欲しい」という欲求を高め、さらにその中で「問い」という指針を立てることによって、「今自分に何が必要なのか」ということがわかるようになり、資料に自分のアプローチで向き合えるようになります。


鑑賞ノートへの記録でも、資料による様々な気づきの生成や、情報の比較・吟味、またすでにある情報を疑い、自分の仮説を立てるというような、それぞれの「解釈」がめいめいに生み出されている様子が見て取れました。

30分ほど資料に向き合った後、

最終課題が発表されます。


課題は、

今後、今回と同様の体験をする人に向けて、「俳句(川柳・自由律可)」にすること。

鑑賞から得たことを自分なりに解釈・取捨選択し、表現することが目的です。


本来「見る」ことは「作る」こととつながっているように感じていて、

鑑賞プログラムも、表現や制作を出口に行えないかなという実験です。

また、作った作品は次の誰かへのバトンになり、

鑑賞が入れ子になって続いてゆくプログラムになればいいな。とも・・・


みなさん時間のない中、苦心して作っていました。

最後は互いの完成作品を並べて鑑賞します。


・真っ白で ぶつかってゆけ 全力で


・この絵にはわたしのすきなものがあった


・大寒や カラヴァッジオめき フェルメール


・日常の かつ華美でない 光の目


・誰目線でのその印象


・破れ障子 パン粥運ぶ マルタ


・ルーティーン 鼻歌うたえば 犬が答える


など、

「句だけでわからせようとせずに、この絵の鑑賞体験とセットとなった作品」

という指示があったので、

少し謎めく言葉で鑑賞の触発や手がかりになりそうなものや、

自身の発見を読んだものなど、

これらの言葉がまた誰かを触発させそうな作品たちができました。

(実際には制作意図も並びに書いてもらいましたが、これらの句の由来や根拠がまた面白いです。)


今後も様々な場所でバンバン実験を行なって、さらに内容を詰めてゆくので、お楽しみに!


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