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2019.3.16 常陸太田校 3限目


18年度の最終講義となった常陸太田校では、

今年度の集大成となる、「知るー見るー作る」が一体となった講義が行われました。


「線を描く」ということをテーマに、

1限目で触れた美術史の流れをおさらいしつつ、

自身の表現をよく鑑賞しながら、再構成することを繰り返し、

「知るー見るー作る」を横断する内容を目指しました。



まずは、紙と鉛筆を配り、

「いまから3秒数えるので、『自由な線」を描いてください」と、

いきなりウォーミングアップを始めます。


さらに、

「今度は10秒で、『太陽』と『雲』と『花』を描いてください」と、

続けて描いてもらいます。


すると、おおよそこんな絵が出来上がってきます。



『自由な線』には、波線、渦巻き、図形、対称構造などが多く現れます。

*もちろん中にはぐちゃぐちゃの線を描く人も、ある程度の数います。


『太陽・雲・花』には、

子供の頃にそれぞれが描いていたような絵が現れます。


いきなり何をしてもらったのか、種明かしすると、

「人類の絵の始まり」は、「子供の絵の発展」と重なるとも言われていて、

自身の子供の頃の絵を振り返るような、ウォーミングアップをしてもらいました。


子供が初めて何かを描き始める時、

まずは手首のスナップだけで描ける「横の線」が現れ、

次に手首と肘を使って描く「縦の線」、

さらには肩も使って「丸い線」を描くようになるそうで、

体の可動域の発達とともに、描ける線が変化してゆくらしいです。


いろんな線が描けるようになって、複雑な形を描けるようになると、

自分が描いた形に意味付けを行うようになります。

大人の私たちは、ある意味を表すために何かを描いたり書いたりしますが、

その逆ですね。


例えば左下の図形であれば、

円形が2つあるから「メガネ」とか、「自転車」とか。

自分が描いた形から、意味を見出します。

さらに成長して、描きたいものを描くようになると、

モチーフを象徴化、単純化した絵(というか記号)を描くようになります。

これがみなさんに描いてもらった『太陽・雲・花』ですね。


対象そのものが本来持つ形態ではなく、

対象の機能や意味を表すために描くようになります。

これが発展したものが「記号」「文字」になるのですが、


一般的な社会の中では、線が持つ、「伝達」の効能が重要になるため、

特別な訓練を受けない限り多くの人は、大人になるにつれ、

このような『意味と強く結びついた線』ばかりを描くようになります。


なので、「『自由な線』を描いてください」といきなり投げかけても、

見たことのない形をパッと描ける大人の方が、少数派になってきます。


 

1限目のおさらいをすると、

ここまでの部分が、洞窟壁画〜キリスト教美術あたりのイメージになります。

モチーフそのものよりも、モチーフの持つ意味や象徴を重視していた頃。

↑絵と記号・文字が一体となっている、こういった表現なんかまさにという感じ。

 

そこから次は、写実というか、対象そのものを忠実に平面に再現する流れがあって、

本来はそこをなぞりたかったのですが、時間もないので、

今回は単純に「対象をよく見て描く」ということを体験してもらいました。


用意したのは馬のイラスト。

これをそっくりそのまま別の用紙に「よく見て」描いてもらいます。


ただし、ここで注意したいのは、

先ほどのように「意味と結びついた線」にならずに、

忠実に「線そのもの」として描くこと。


普通に描き始めると、多くの人は

「あ、これは馬だな」「この部分は蹄だから・・」

という風に意味を意識してしまって、

純粋な線の形態を、ちゃんと見て描かなくなる危険性があります。


なので、今回は線の持つ意味をなるべく意識しないように、

見本の馬のイラストを、逆さまにして描いてもらいます。

頭の中では「これは馬の形ではない。こういう形のただの線なんだ!」と、

常に言い聞かせて描いてもらいます。


そうすると、正位置で描くよりも、実は正確に描けるということが起こってきます。


このような「意味から離れて、形そのものとしてよく観察する」という訓練は、

実際デッサンを教える現場でもよく行われていて、

今回はそれをほんの少し体験してもらいました。


*もっと上手く描きたい人は元ネタのこの書籍を読んでみてください。


 

こういった、訓練の延長に「現実をそのまま描く」という、

「写実主義」があるイメージで今回はお話ししました。



写真の登場によって、そこから表現の抽象化が始まってゆきます。

印象派ーフォービズム ーキュビズムを経て、抽象芸術へ・・・


対象の形そのもというよりは、対象をきっかけに、

描く者の中にある、色彩や形態を引き出して表現するような動向が現れてきます。

講義の最初に実践した表現に、通ずるところもあるような気がしますね。

 

抽象主義や、シュルレアリスムの作家が行なっていたような、

純粋な形態を自身から引き出す行為を下敷きに、

次は線を使ったこんな遊びをやってみます。


画用紙に、以下のルールに沿って線を描いてゆきます。

・「終わり」の指示があるまで、線を止めずに描き続けること。(描く速度は自由)

・「ダメ」と指示された時間は、描いた線をまたいで線を描くことができない。




時間が経って、画面が線で埋まってゆくごとに、

描くのが難しくなってゆきますが、それでも描くのを止められない。


自分の意思と、それを貫徹できない制限によって、

『自由な線』らしきものが、割合簡単に現れてきます。

この遊びは、『Atelier-Alternative』アトリエ・オルタナティヴ主催の

加茂さんに教えてもらったのですが、

子供でも大人でも、100人くらいの大人数でも楽しめ、

鑑賞のエッセンスも自然に込められる、 すごく優れたプログラムです。


さらにここからは、2限目の鑑賞体験を思い出し、

自分で描いた線をよ〜く見てもらいます。


そして、気に入ったところをトリミングして、

台紙にはめ込んで展示してもらいます。



同じルールで数十秒描いただけなのに、

描いた人の人となりが伺えるような、魅力的な作品がそれぞれに完成します。


会場に展示して並べると、自然に見る人から感想が漏れ聴こえてきます。

今回は作者に自作の解説をしてもらいましたが、

対話型などの鑑賞プログラムの導入にも応用できると思います。


それぞれの作品を鑑賞しつつ、休憩に入り、プログラムは後半へ。

 

後半、まずは再び自分の作品をよくみて、お気に入りの線を見つけてもらいます。

目を瞑り、その線を頭の中でイメージします。


そして、指先で空中に大きくその線を描いてみます。

もう一度、さらに大きく、抑揚をつけて空に線を描きます。

最後は自分自身ががその線になるイメージを作り、

体全体で線を表現してもらいます。

自分が描いた線の特徴や印象を、体の中に収めたら、

今度はその線を、現実の世界に引っ張り出してみます。


・・というと、一休さんの屏風の虎のようですが、

どうするかというと、線をよくみて抽出したイメージを、

針金を使って立体化してゆきます。

全ての要素を立体化はできないので、どこを抽出するかよく考えて形を編集します。

また、現実の奥行きや、重力といった、新しい要素も表現に加わります。

さっきまでは、平面の中にあった形が、現実の世界に立ち上がり、

また違った佇まいを見せます。


ドローイングとともに展示すると、こんな感じ。

これだけでもかなりいいのですが、今回はダメ押しで、もう一捻り入れて着地します。


平面から立体に再構成した線を、もう一度平面に戻します。

またとんちのようですが、今度はこんな風な方法を使います。

部屋を暗室にして、立体を懐中電灯で照らし、

壁面に再び二次元の線を描きます。

光源とスクリーンになる壁面の位置を変えたり、

立体自体を動かすことで、線は動きを持ち

「時間」や、「相互作用」という、新たな要素を持った表現に生まれ変わります。


ひとしきり個々で影絵を楽しんだ後、

全体で上映会を行い、今回のものづくりは終了。

まとめに入ります。

 

後半の主軸となったドローイングの遊びは、

シュルレアリストたちが用いた

オートマティスム(自動筆記)をベースにしていたので、

アンドレ・マッソンのドローイングを紹介しました。


予想外の表現を自分から引き出すために、

あるルールに従って行為するというのは、

ダダや、具体、アクションペインティングなど、

抽象から始まる動向にも、度々みられるものです。


写実から抽象化へ進んだ絵画表現は、

その後、平面にとどまらず、現実世界を侵食していきます。


線を体でトレースしてもらったのは、

表現する身体や行為へ意識が向いていった、

アクションペインティングや、パフォーマンスのイメージ。


立体に再構成したのは、絵画が平面から飛び出し、

平面と立体の線引きが曖昧になっていった動向のイメージ。


その延長にミニマルアートや、ランドアートがあるようなかたちで、

1限目はお話をしたので、現実世界に出てきた表現が、

環境の影響を受けて変化し、その現象も作品化するようなイメージが、

最後の影絵遊びになります。

 

自身で実際に、作るー見るー知るー作るー見るー・・・

を繰り返しながら、表現者の思考や行為もトレースしつつ、

美術史の流れもおさらいするような、複合的な授業になりました。


取手や喜多方の結果も受けて改良した本年度の集大成です。

満足度も非常に高く、

16人の参加者全員から、アンケートにしっかりと自筆コメントをいただけました。


3年ほど知ったか大やってますが、このようなことは初めてでした。

3時間の長丁場、みなさんお疲れ様でした!


以下はダイジェスト動画になります。




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