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2019.6.2 取手校ゼミ#1 (後半)

2019.6.2

取手校ゼミ 2019 #1 (後半)

(ログ担当:石渡)

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今回のゼミの内容はこちら。


1.ゼミ生Aからの発表

・作品を買うことについて-アートフェア東京-


2.佐藤悠さん・ゼミ生Sからの発表

・莇平 田植えレポート


3.佐藤悠さんの鑑賞プログラム実験

・反対話型鑑賞

・筆談でアタック4


4.知ったかART NEWS

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3.佐藤悠さんの鑑賞プログラム実験





佐藤悠さんが展開する鑑賞プログラム。

今回は2つのプログラムを実験的に行いました。


・反対話型鑑賞

まずは、「反対話型鑑賞」です。

「反対話型鑑賞」とは、悠さんが最近考案した新しいプログラム。

解釈の可能性を広げるため、

敢えてあらゆる解釈に反対しながら鑑賞をするというものです。


プログラムは次のような流れで進めます。

(以下は、悠さんの「反対話型鑑賞」に関する記事を参考にさせていただきました。)


まず、参加者は5分間、黙って作品を鑑賞します。

鑑賞を終えた後、

ファシリテーターは鑑賞作品の一般的な解釈

(解説書などの内容を簡潔にまとめたもの)を発表します。


 それに対し、参加者は、以下のルールに沿って、1人ずつ順番に発言してゆきます。

____________________________________________________________

・先に発言された内容に対し、同意することを避け、  「でも」「その一方で」「しかし」「逆に考えると」  などの言葉を用いて反対し、先の内容と異なる新しい解釈を発言します。

・発言は本心を伴っていなかったり、屁理屈でも構いません。

・ファシリテーターは、発言内容が被っていないか、  妥当性を著しく欠いた解釈になっていないかを  任意の基準で判断し、「よい対話」にするために指摘することができます。

・発言は解釈可能性を広げるために行い、  ある解釈についての否定を行うのであって、  特定の個人、国、文化などを否定するような内容とは異なります。  また、発言と発言者は区別されます。


_____________________________________________________________________


今回使用した作品は、國分郁子さん

「酔狂の蜜は昼のさなかに」という作品。


*作家さんのご厚意で、プログラムに画像を貸していただきました。

今日はこちらの作品を鑑賞します、

と提示された瞬間、参加者全体から「これは…」という雰囲気を感じました。

抽象的な要素が多い作品なので、しっかり向き合わないと!という緊張感が走ります。


まずは5分間、近づいたり、遠くから眺めてみたり、

各々のスタイルで作品をじっくり鑑賞しました。


そしていよいよ反対話タイム。

まず、ファシリテーターの悠さんから鑑賞作品の一般的な解釈が発表されます。

そこからスタートし、ありとあらゆる反対の接続語でつなげながら、

先に述べられた解釈とは異なる見解を次々述べていきます。


「永遠を感じる」対「限られた空間」、

「愛」対「憎悪」、

「空想の世界」対「現実の世界」…


作品から感じたことを土台にしつつ、先の解釈の否定をしなければいけない。

ただ、感じたことを述べていく今までの「対話」型鑑賞と異なり、

先の解釈を否定するという作業が追加される。

しかも、それをテンポよく、次々に回していく必要があるため、

脳がフル回転していく感覚がありました。


だんだん白熱していって、

発言内容を記録するために悠さんが用意したボイスレコーダーが、

途中からマイクと化していて、力説を展開するゼミ生も多数登場しました。


ゼミの予告段階で、今回の鑑賞プログラムは「演じる」ことをしてもらいます

という話があり、その時は「はて?」と思ったのですが、

白熱する「反対話」の現場で、そういうことかと少し分かった気がしました。


「反対のことを言わなきゃ」という焦燥感のもと、

従来の自分の感覚・思考では出てこなかった解釈が生まれる瞬間があって、

それは本当の自分とは切り離された違う自分との出会いのように感じました。


作品に対する専門家の解釈や知識を、

一方的に提供する鑑賞のアンチテーゼとして誕生した「対話型鑑賞」。

鑑賞者各々の感想を重視し、対話により共有することで、鑑賞はより自由になりました。


一方、感想を重視することにより、鑑賞者の思考・感覚の枠は超えられない、

また、対話により共感することで、

作品のイメージが固定化されてしまうかもしれないといった限界もあるかもしれません。


「反対話型鑑賞」はその場の化学反応により、

鑑賞者自身とは切り離した新しい解釈が生まれ、

対話によるイメージの固定化を避け、

さらに新たな見地を開いてくれるものになるかもしれないなと感じました。


今回は、反対話を2周実施しました。

1周目は、作品の解釈に関する発言が多かったのですが、

2周目は作品そのものに関する発言が多かったように思います。


これば実は絵ではなく、立体作品を写真に収めた作品であるとか、

巨大な作品であるとか、いやいや、

顕微鏡から見える世界を映したもので、人工物ではないなど…作

品そのものの存在に対する疑問の目が生まれ、

まさに鑑賞の新たな境地に踏み込んでいる感覚がありました。


初挑戦の「反対話型鑑賞」。

テンポも良く、かなりヒートアップして盛り上がるので、

鑑賞プログラムのウォーミングアップとして、即興的に楽しむのも良いし、

今後の展開としては、参加者の発言のキーワードを記録する書記さんを設けて、

それを参加者で振り返り、分析し、その作品をより深く味わう、

「反対話型鑑賞の対話型鑑賞」というのもできるかなと思いました。


・筆談でアタック4

今回のゼミは鑑賞プログラムも豪華2本立て。次は、「筆談でアタック4」です。

悠さんが提案している「アタック16鑑賞」。


1枚の絵を16分割し、1/16になった絵を1枚ずつ提示していき、

その断片をよく見て、何が描いてあるか、全体はどんな絵か推理をしていく遊びです。

今までオンラインと、対面で実施してきました。


ただ、それぞれのやり方にはメリット・デメリットがありました。

オンラインでは、発言の記録が残るので、

鑑賞中も過去の発言を振り返ることができるという反面、

非常に時間がかかるという問題がありました。


一方、対面では、テンポよく進められますが、

逆に展開が早すぎてしまうことと、

過去の発言を振り返ることができないという問題がありました。


この表裏一体のオンラインと対面のやり方のいいとこどりを目指したのが、

「筆談」です。

文字で記録することで過去の発言を振り返ることができ、

また書くという動作が伴うので、話すより時間をかけて進められます。


進め方の概要は以下のとおりです。


・参加者は2~3人一組になります。

・各グループに模造紙、付箋紙、ペンを配布します。

 グループ内で自分の意見を記録するペンの色を決めます。

 模造紙と付箋紙の使い方は自由。

 記録は模造紙に直接書いても良いし、付箋紙に書いて模造紙に貼っても構いません。

・発話は禁止。やりとりはすべて筆談で行います。


今回の鑑賞作品は

ジャン=レオン・ジェローム『ピグマリオンとガラテア』というものでした。


従来の「アタック16鑑賞」は、ひとつの作品を16分割していましたが、

今回はこちらの作品を4分割して行いました。


まずは、右上の1/4から提示されました。


天使と、苦痛の表情を浮かべた男性の顔が描かれています。

口づけをしている2人の姿が左端に見えます。


天使の矢はどこに放たれているのでしょうか。

苦痛に満ちた顔の下には何が描かれているのでしょうか。

口づけをしている二人は誰なのでしょうか。


次に左上の1/4が提示されました。



やはり中央の2人は口づけをしているようです。

左側に見えるのは、絵でしょうか。彫像でしょうか。

左側の天使と男性の顔を結び付け、

「快楽による堕落を意味していて、下には地獄が広がっている」という意見もありました。


また、中央の2人は誰なのかということは多くのグループで議論があり、

人間なの?男女?もしかして男性同士なのでは?との意見がありました。


そして最後に、下半分の2枚が同時に提示されました。


発話が禁止されていましたが、おそらく参加者みんなが

「そういうことだったのー!」と心の中で叫んだと思います。

これが「アタック鑑賞」シリーズの面白さです。


筆談でという以外は、グループのやり方に任されていた今回のプログラム。

グループにより、対話の仕方が様々でした。


直接模造紙に書き、相手の発言に対する意見を言いたい時や

過去の発言につながる部分がある時は、矢印を引いて書き進めていったグループ。



チャットのように、付箋紙に自分の意見をどんどん書いて、模造紙に貼っていくグループ。



今まではオンライン、対面ともに司会者がいましたが、

今回は完全に参加者の対話により進めていったので、

互いに行き詰った時にどう突破していくのか、

無言の時間をどうしたらよいか悩むところもありました。


発想に制限をかけない範囲で、プログラムを進めるためのルールを設定していくと、

そういう戸惑いも少なくなるかなと思いました。


筆談で対話をしていく難しさも感じる一方、

言葉は発しないけれど、表情や仕草などで共感なども示すことができるので、

オンラインにはない面白さがありました。


そして、やはり発言の記録が残るというのは大きなメリットで、

他のグループの対話を全体で振り返ることもでき、

「鑑賞の鑑賞」には適しているなと感じました。


1枚の完成された絵として観ると、

見過ごしてしまいそうな細部にまで気づくことができるこのプログラム。

想像力も刺激され、この鑑賞プログラムを通すと、

あまねく観ることできたと、まさに作品を味わい尽くしてるという感覚になります。


遊び感覚で、対面で自由に発言していくのもいいし、

今回のように筆談で記録を残し、みんなで振り返るのも面白いと思います。

その時々の目的により、

いろいろな使い方ができる鑑賞プログラムになるかもしれないなと感じました。

次の展開も楽しみにしています。



4.知ったかART NEWS


最後は、知ったかゼミの名参謀Tさんが、

最近アート界隈で話題になったトピックを紹介する、「知ったかART NEWS」です。

今回のラインナップはこちら。


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①「バンクシー作品らしきネズミの絵」東京都庁で一般公開

②茨城県北芸術祭が開催中止

③アートフェア東京2019 売上高過去最高に

④会期迫る 愛知トリエンナーレ2019

⑤美術評論家連盟が「ICC出品作の改変に関する公開質問状」を提出

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①「バンクシー作品らしきネズミの絵」東京都庁で一般公開

バンクシーは、イギリスを拠点とする匿名のアーティストと言われています。

世界中の壁や公共物に、政治・社会批評の色合いの強い作品を落書きとして残しています。

今年1月に東京港区の防潮扉で発見された、

バンクシーが描いたとされるネズミの絵が、

4月25日より東京都庁第一本庁舎2階のロビーで一般公開されました。


バンクシーは落書きという違法行為を通して、

自己の政治・社会的権威に対する批判を主張しています。

その作品を都の重要な文化財であるかのように展示すること、

その是非についての問題提起がされました。


落書きというヴァンダリズム(破壊行為)を

都が認めることになるのではないかという危惧。

そして、アンチとして掲げていたものから認められることでアンチではなくなる、

バンクシーの主張ややり方が正しいか否かという議論は一度置いて、

アーティストの表現の自由という観点でいうと、

アーティストが主張することをつぶす結果にかっているのではないか、

という議論になりました。


②茨城県北芸術祭が開催中止

今年予定されていた茨城県北芸術祭が開催中止となることが、

大井川茨城県知事より明らかにとなりました。


2016年に第1回が開催された茨城県北芸術祭。

前知事在任中には、2019年秋開催が予定されていました。

しかし、知事交代後、「開催時期未定の延期」とされ、

この度正式に開催中止となりました。


大井川知事の

「一過性のイベントである県北芸術祭に依存した施策を見直し、

持続的な地域の発展につなげることがまずは大事」とし、

「持続的な発展に対し、真に効果的であったか曖昧な県北芸術祭は中止する」

という見解があるそうです。


昨今、まちの名前を冠する芸術祭が各地で模様されていますが、

その実行委員会にはその自治体の首長が所属しています。

そのため、トップが変わり、考え方も変わると、

その芸術祭自体の存続が危うくなるという構図が浮き彫りになりました。


アートがどう地域と関わっていくか、

何のために、どうつながっていくのかを考えていく必要があるという議論がありました。


③アートフェア東京2019 売上高過去最高に

先述の「1.ゼミ生Aからの発表・作品を買うことについて-アートフェア東京-」の

つながりとして、アートフェア東京に関するニュースも取り上げました。


アートフェア東京2019で過去最高の29億7000万円の売上高を更新しました。

今年劇的に増加したわけではなく、前年と比べても微増の範囲で、

年々少しずつ規模が広がっているそうです。


④会期迫る 愛知トリエンナーレ2019

愛知トリエンナーレは、愛知県で開催される都市型の国際芸術祭です。

2010年より3年ごとに実施されており、今年8月1日~10月14日まで開催されます。

今回の大きな特色としては、

芸術監督にメディアジャーナリストの津田大介さんが就任し、

「参加アーティストの男女比を平等にする」と発表したこと。


医学系大学の入試で女性が不利になるよう点数操作をされていた件は記憶に新しいですが、

美術界でも男女格差というのが存在しているというのが津田さんの主張です。


たとえば、学芸員の男女比は女性の方が多いですが、

美術館長となると男女比が逆転します。

また美大の生徒は女性が多いですが、教授は圧倒的に男性が多くなります。

そのような事態を受け、愛知トリエンナーレでは男女不平等の是正を掲げました。


これに対し、「作品で評価するのではなく、先に男女を選ぶのか」という

批判もありました。

しかし、津田さんは「数字を優先させていない。

何より重視したのは、芸術祭のテーマと合致するかということ。」と明言しました。


私の好きな上村松園が生きた時代は女性が画家になることも難しかったと思いますが、

比較的先進的と思われるアートの世界でもその頃と変わらない考えが

もしかしたら根強くあるのかもしれません。


女性アーティストの方が、

男性アーティストより外見の美しさとともに作品を語られることが多いなど、

データには表れないジェンダーの問題もあるようです。


⑤美術評論家連盟が「ICC出品作の改変に関する公開質問状」を提出

NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で開催された展覧会の出品作が、

運営側のICCにより黒く塗りつぶされたかたちで上映されたこと受け、

美術評論家連盟が

東日本電信電話株式会社とエヌ・ティティ ラーニングシステムズ株式会社に

公開質問状を送付しました。


美術評論家連盟は、

芸術作品の内容に対する外部からの検閲、変更や干渉は、

著作権および表現の自律性への侵害、損傷にあたるとの見解を示しており、


NTT東日本広報室の

「企業が運営する施設である以上、

不快にさせる可能性があれば原則的に変更をお願いしている」という

見解を行動の指針とするのであれば、ICCの展示物も

「つねに検閲や指導を含む事前許可を得た非自律的な広告と見なさざるを得なくなります」と指摘しました。


このニュースから、

・自己資金ではない作品において、作品の表現の自由は守られるのか

・タブーとされがちなテーマをどのように扱ったらいいのか

といった問題が提示されました。


この記事の作品の黒く塗りつぶされた箇所というのが、

身体欠損に関する表現であったことからの関連で、

片山真理さんというアーティストが紹介されたことも興味深かったです。

片山さんは、両足が義足である自身の体を被写体とする

セルフ・ポートレートという手法で作品を発表しています。


また同様のテーマを扱うものとして、愛知トリエンナーレ2019での、

「表現の不自由展・その後」という展示も紹介されました。

2015年に開催された、「タブー」とされがちなテーマの作品が、

当時いかにして「排除」されたのか、

実際に展示不許可になった理由とともに展示した

「表現の不自由展」のその後の展開を扱います。


アートに触れることは私にとっての趣味で、

人生を豊かにしてくれるものであると感じています。

知ったかART NEWSを通じ、ただ楽しむだけではない視点を得ました。


しかし、社会の問題との繋がりとアートを通じて考えることは、

自分の感性だけではなく、世界をよりよくしていくものであり、

それも豊かな生き方であると思います。

アートを通じて「考える」。またひとつアートとの関わり方を見つけました。


内容が盛りだくさんのため、ログも長くなってしましました。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

次回のゼミの情報はこちらのブログやFacebookに掲載していきます。


次回は、取手のシェアアトリエ航大の見学レポートなどを行う予定です。

私も昨年度のゼミ以来課題の一つとなっている「絵本」について、

何かできればと考えています。

そのため、「絵」が好きな絵本をひとつ持ち寄っていただくことにしました。

みなさんの絵本が楽しみです。

みなさんのご参加もお待ちしております。


次回もどうぞお楽しみに。

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